アトリエに林屋晴三先生がおみえになった。
巫女舞の練習に並べて敷いてあった畳をごらんになると
「今週の茶会のためにこれに月という字を書いてほしい」とおっしゃった。
ただいま集中している「あひる草文字」で瞬間に書き上げた。
襖には書いたことがあるが畳は初めての試みであった。
畳目に墨と筆が反発するかと思ったが、思いのほかスムーズで
初めての新しい触感が楽しく感じられた。
先生はことのほか喜んで下さり、茶会の床の間をこの畳が飾ることになる。
どなたかが過去になさったのかとたずねると
「わしも見たことがない初めてだ」とおっしゃるので笑ってしまった。
先生の着想で思わぬものが生まれた。